留萌の星兜杏葉残欠、実はこんなにイケていた!…北海道中世武具の謎-その3

https://tekkenoyaji.hatenablog.com/entry/2020/05/04/102950

https://tekkenoyaji.hatenablog.com/entry/2020/05/13/213724

楽しく学ぼう…これが、我々のスタンス。
そういえば、留萌の星兜杏葉残欠については題目だけ紹介したが、改めて紹介してみよう。


「本資料は、北海道留萌市エンドマッカ(現在塩見町)出土と伝えられる物である。~中略~昭和58年に留萌町史でその存在を知り、留萌高校へ問い合わせたところ、現在も所蔵していることが判明し、その重要性を訴えたところ、同校の好意により留萌市教育委員会へ寄贈された。」

「本資料は、その発掘経緯、出土地点、出土状況とも明確ではないが、留萌地方で現存する唯一の星兜鉢残欠である。兜鉢は大破し、多くの部品に分かれているが、接合したところ、鉢の前正中板と右二の矧板が欠損しているのみで、原型の4分の3以上を残している。」

平安時代の兜鉢の製作方法には2種類あり、一つは矧板鋲留式、もう一つは一枚張筋伏式である。矧板鋲留式とは、縦に長い梯子形の鉄板打ち出し枚数から十数枚矧き合わせて半球状に形成して鋲留したものである。本資料は矧板鋲留式で、両側面中央の矧板を順次上重ねに矧き合わせていって、前後の正中板を外側に張って張留めする構造をとる脇張出式である。この形式は平安時代後期から鎌倉時代中期頃まで行われたと考えられている」

「前略~本資料は12枚張りと推定され~中略~唐沢山神社蔵品や御岳神社蔵品と同じである。(筆者註:他の北大蔵品も合わせ、矧板枚数から平安末の物と同じと言う意)」

「眉庇は存在せず~中略~また、一部に黒漆が付着している事から、当資料は黒漆塗りであったと推定される」

「以上留萌市塩見町出土の星兜鉢および杏葉残欠の特徴を述べてきた。星兜鉢については、平安後期から末期の緒特徴を有していると考えられ、杏葉は鎌倉時代のものと考えられる。」

「昔時、黒漆塗りの12間星兜は「厳星の兜」の名に恥じぬ豪壮な雰囲気をかもしだしていたことだろう。また、杏葉については、現存する類例が鶴峯神社蔵のみであり貴重な資料といえる。」

「甲冑を含む武具は、多くは武門の家に伝来する性質のものである。特に大鎧、兜等は武将クラスの着領と考えられ、一般の雑兵が身につける事は不可能である。特に、余市町栄浜遺跡出土の菊丸文兵庫鎖などは、武将が直接渡来したと考えてよさそうな遺物である。」

考古学雑誌71-1 1985年 「北海道留萌市出土の星兜鉢および杏葉残欠について」 福士廣志 より引用…

あるじゃないですか…物凄い宝物!
筆者の福士氏は、武将が直接渡来したと考えてよさそうな遺物と評している。
とは言え、解らないと言う方…
http://rumoi-rasisa.jp/rumoide/archives/branch/umihuru/
留萌市海のふるさと館に展示しているとの事。
が、只今冬季休館中(苦笑)
フォロワーさんが行った時の写真を借りましょう。
留萌の星兜,杏葉残欠から復元されたレプリカがこれ。

f:id:tekkenoyaji:20201031133014j:plain

まさに豪壮!

ところで、「北海道留萌市出土の星兜鉢および杏葉残欠について」で福士廣志氏の指摘によると、北海道の甲冑等武具の出土は11例…
札幌…星兜鉢,鍬形,太刀
厚真町…筋兜鉢
静内町…青銅製星兜鉢,鉄剣
足寄町…眉庇,刀剣,鐔
釧路市…星兜鉢残欠
瀬棚町…筋兜,伊予札,太刀等
増毛町(ショカンベツ)…兜鉢
増毛町(カムエトチャシコツ)…兜
余市市…胴丸残欠,鶴丸文兵庫鎖,等
斜里町…銅製鍬形
栗山町…鍬形7枚
とある。
後に見つかった物もある様なので、その数は増える。

兜は特に、戦勝記念に神社に奉納したり、添付の様に埋めて植樹と共にお堂を作ったり、現物が残されたり伝承される事がある。
当然です。それが残されると言う事は首が繋がってる事、つまり、勝利の証。
多くが、発見経緯が偶然で、出土状態不明だが、上記とこの留萌市の星兜鉢を合わせ12例の出土品の中には、武将級の直接渡来有りの可能性がある事も福士氏は指摘している。
同時に、福士氏は、
前九年,後三年の役
奥州藤原氏滅亡…
南北朝以後の争乱…この三点が渡来の波と指摘している。

とは言え、このブログを見て戴いている方は、我々がフィールドワークしてきた中で、そんな波は幾つもあった事は既に掘り出し済み。

北海道の中世史は薄い…
まだまだ面白い物はあるハズだ。
北海道には、こんな面もあるのです。



参考文献:
考古学雑誌71-1 1985年 「北海道留萌市出土の星兜鉢および杏葉残欠について」 福士廣志