ゴールドラッシュとキリシタン17…徒弟制度&相互扶助?、リアルな「友子制度」の実態

https://tekkenoyaji.hatenablog.com/entry/2021/02/22/102500
https://tekkenoyaji.hatenablog.com/entry/2021/02/12/194837
昨今の古書→「太良鉱山」の実態…この際、ここに「ゴールドラッシュとキリシタン」でずっと語ってきた「友子制度」を重ねてみよう。
何せ「太良鉱山」においても「友子制度」は行われていた。
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この「友子制度」について、ブログで初めて扱ったのが、院内でのフィールドワークでの事。
https://tekkenoyaji.hatenablog.com/entry/2020/05/17/171103
これにある様に、技術流出を防ぐ為の「徒弟制度」と事故やじん肺へ対応や為の「相互扶助」…この目的で作られたとされており、江戸中期位には完成していた様である。
たまたま見つけた書籍「出羽路」に、坑夫だった方へのインタビューを中心に、そのリアルな実態を記載していたので、引用してみよう。
今迄漠然とした制度の実態の一端を見つけた気もする。

「鉱夫の社会組織は、鉱夫は鉱夫衆と呼ばれて長刀を許され野武士、又は浪人の扱いを受けた時代もあつた。彼等には定職がなく渡り鉱夫といわれ、収入や鉱況に変化があれば移動し又、設備の危険な坑内での作業は甚だ健康を害するので、同じ鉱山に永くいることは少なく、従つて独身者や家庭を持つた者も早死にすることが多いので、女子は再三夫を変えるのも普通であつた。」

幕府も特種地域として(治外法権)大目に見ていたので、乱暴者が入り込んで随分勝手な振舞もあつた。然し彼等には鉱山の掟があり、山法というて五十三ヶ条を規定していた。最も重い者は除名処分であつて、法度に背いた者は身体の一部を切つて(例えば鼻を削り)追放したり、不義密通した者は首級或は裸に曝して山中を引廻したり牢人の厳しい扱をした。かやうに鉱山には一筒の自治体があり、鉱夫には一種の労働組合的な組織をしていた。」

「鉱夫の生活には第一に取立が行われた。それらは鉱夫の仲間入りをすることであり、心の汚れを洗つて親兄弟の縁を結び、山法五十三条を読んで結成式を挙げた。」
「仲間入りをすると全国の鉱山に通知され、天下の坑夫となり、仁義を切れば何処の飯場の厄介にもなることが出来た。昔は渡り坑夫となるには六年半を要し、堀子となつて三年三ヶ月で弟分となり後三年三ヶ月で親分を持つた。これは日本国中の鉱山が協議して同盟友子と名づけ、関東以北の坑夫を渡り坑夫、関東以南の坑夫を地坑夫と呼んだ。」

「正面に山神のかけもの、この前に海のもの山のものを供え、坑夫の使用するセツトウ、掘タガネ、口切りタガネの一部に白紙を巻いて神前に供える。この正面に山中大当番、箱元、区長、坑夫の年長者その他の係員が着坐、この隣りに鉱業所長、隣山の山中大当番が隣山立会人として坐する。このとなり町長、学校長、警察所長などの代表者が来賓として坐る。この日親分になる者、兄分になる者など、これに新しく出世した者、そして坑夫仲間一統が会場に集まるのであるが、あくまでも儀式であるので静かである。全部揃つて神拝、後世話人が親分になる者の名を呼ぶ。
親分 羽後の国の産……何の何某
子分 陸中の国の産……何の何某 呼ばれる順に坐る、親分と子分は対座、この年出世した者何人かが皆親分と対座した時、三三九度の杯事がある。世話人が中を通りながら酒を交々につぐという事になる。これが終わると次は兄分と舎弟という関係の杯事がある。出世したものは父に当る親分と母に当る兄分を与えられた事になる。~中略~昔は否今日でもここで子分となつた者は三年三ヶ月十日、親分の家に行き、他所行きを許さず生活を共にし、職場を共にし、苦楽を分けあつている。」

「鉱山に職を求めて来る坑夫はこの交際飯場に来る。こういう坑夫を浪人(ろうにん)と呼び、浪人は飯場の玄関で迎えに出た者に
貴君とは始めての対面とは思うが何処かで会つたことがあるかも知れない。二度の対面や言葉の間違いをお許し願いたい。自分は何処の国の者てこれゝという者、出世の鉱山はこれゝ、親分は何某、子分は何誰々職歴や出世歴、更にこの鉱山を訪れた理由を詳細に述べる。(此れを仁義を切ると称する)
飯場の者は
御浪人衆にはご苦労さん……まずゝという場合もあれば型通りの事を入れかわり、立ちかわりやられる事もあつて仁義形式を一通り勉強して置かないと言葉、態度などやかましいものだ。」

「浪人が飯場にいる時、喧嘩があつた場合、又山の中の何処かに喧嘩があつた場合、浪人が仲裁に入れば理由はどうでも仲直りをして浪人の顔を立てた。若しこの場合浪人の仲裁に任せぬ時は浪人は隣り山の山中に訴え更に全国鉱山に通達方法を執ることになる。為にとんだ大喧嘩となつた例もある。」

「子分は親分に対して絶対的なもの、親分は子分を守ること堅く、血を分けた子供以上のものとしていた。兄弟分はまた、実際の兄弟よりも堅いものとしていた。鉱山に殺人事件や喧嘩の多い原因の一つである。万が一、山中大当番が号令をかけるような事になれば、どんな事でもやつたものだった。子分は親分の石碑(筆者註:お墓の墓石の事)を建てたものである。実子や兄弟分も援助はするにしても、子分が大部分の事はやつた。若しこれを不義理のうちにやらぬようなものは全国の鉱山に廻状が行き、坑夫として生きて行けない実際面もあつたし、男として恥じるような男女関係は厳しい誓いもあり、現在のような事は夢でもなかつたであろう。」

「出羽路 第七号」奈良環之助 「友子について」工藤由四郎 昭和三十五年一月二十日 より引用…


これ等はまず「結杯式」で兄弟や親方との契りを結び、全国へ通知、堀子から出世していく登録式徒弟制度&相互扶助制度を敷いていたのだが…
資料館らでサラリと書いているが、実際はこんな感じの物である。
というか、五十三ヶ条の掟で縛りを掛けた、
鉄の掟はThe裏社会…
相互扶助はキリシタン…まるで合作の如し。
だが、裏社会とは言えないか。
これは、既に江戸中期には完成しているとの事なので、下手をしたらこちらが古いかも知れない。
とは…研究者が論文には書けないであろう。


こんな風に、情報流出を防ぐ為鉄の掟を掛ける必要があり、それは全国に及ぶネットワークになり、除名されたら最後…まともに生きていく事が難しい…故に、「太良鉱山」らでも、施政者側文書には余り書いたりせず、取り上げす、山の事は山で解決、口出しせぬ代わりに、生産確保せよ…と言う事か。
江戸中期にはこのネットワークは完成していて、近代迄続いていた。

が、我々的に食い付いてしまうのは、『長刀帯刀』…
勿論、時代背景にもよるが、江戸初期から鉱山開発が盛んになるので、武家出身も居れば違う者もいた。
この1号墓の主、刀の鍔の付け方が滅茶苦茶とあるのだが…
https://tekkenoyaji.hatenablog.com/entry/2020/12/02/184205
そう、その時代に各地に居たまるで「傾寄者」…
食い扶持が無くなれば、それなりに…
妙にリンクすると思うのは…我々だけであろうが?
そう言えば、独自ネットワークを持ち、妙にやけに北海道に詳しいのは何故?
https://tekkenoyaji.hatenablog.com/entry/2021/01/26/174810


まぁ推定や勘繰りは此処まで。
いずれにしても、阿仁鉱山らでも、こんな掟の中、江戸期から近代迄こんな徒弟制度&相互扶助制度が行われてきたのは事実であろう。
そう、「労働組合」に変わって行くまでは…親和性高いか?
ここもまた、意味深になって来そうなので、本項はここまで…


参考文献:
「出羽路 第七号」奈良環之助 「友子について」工藤由四郎 昭和三十五年一月二十日