♨の放送内容は噓になるのか?…松浦武四郎が記す「温泉」と日常入浴

https://tekkenoyaji.hatenablog.com/entry/2022/01/17/211327
松浦武四郎蝦夷日誌からの一連であるが、たまたまSNS上に出た話があったので、一項設けてみよう。

内容はズバリ…某テレビ番組の北海道の特集で温泉が紹介された由。
アイノ文化に風呂に入る習慣は無いのではないか?との話があった。
https://tekkenoyaji.hatenablog.com/entry/2020/10/11/143552
衛生上の問題は江戸期の同化政策でも指摘され、風呂に入らなかった話も。
なら、番組は噓になるのか?
実は、松浦武四郎はこんな記述を残している。
以前も少し触れているが、改めてクローズアップしてみよう。
それぞれどの地域示し、本文引用する。

①山越内領
・美利加別近く…
「是より上、エラマンテウシ(右小川)、アイチユウナイ(左小川)、此所にて二股。右クスリサンベツ(小川)、此源に温泉数ヶ所有て、土人等皆モウベツより爰え湯路〔治〕に来る也。左の源カニカン岳に至るよし。」
紋別近く…
「所々に温泉数ヶ所。瘡・切疵・眼病・こしけ等に宜しく、此邉の土人君縫・ヲシヤマンベ〔長萬部〕川筋等より上る。夏秋は草深くして甚行悪く(一日半)、春堅雪の比に余はモベツより上りしが、温泉近く迄行て泊たり(凡例六り位)。其所しばし雪なし。礁原也。爰に小屋を作り宿す。又浴る處も無が故に、俵笆を小川中に敷て、其上に臥て温もる也。其温もり方他方に類なく、実に奇とすべし。」

幌別
登別温泉
「岩坂切通し少し下りて温泉場、今は止宿所も出来、湯治人も居たり。筵を河中に敷て浴せしが、今は川の上に屋根を架、二川(西、シユンベツ、水川也。東、クスリサンベツ、熱湯也)合て程よき故にして入る也。硫黄にして臭気甚し。」

③根諸〔根室
根室市と久摺の境付近…
「此處より久摺湖またシベツチヤ〔標茶〕等へ道筋有。上にカンチウシ岳、其後ろに温泉有、久摺の土人は惣て是に湯治す。」

以上、「蝦夷日誌(上)」 松浦武四郎/吉田常吉 時事通信社 昭和37.1.15 より引用…

④クドウ〔久遠〕領
・アナクドウ…
「アナクドウ(十三日、フトロ〔太櫓〕ドホンアキ召連れ出立)小澤の西に有、大岩聳し腰に大穴有て、其上に貫たり。神霊有とて木弊を立て尊敬す。岩面に鉄漿水の如き水滴出る。土人等切疵・打身等に附るに即功有と。」

⑤磯屋〔イソヤ〕領
尻別川上流…
「余丁巳〔安政四年〕五月五日磯谷に到り川筋行の事を談じ、糧食の用意し、案内(サケノカロ、スイト、五右衛門、甚四郎)四名を命じて、六日(快晴)刳船二艘を雇、渡場より出(右平山、左平野)。ラシヘルシナイ(右小川)、クロルシナイ(和人ユーナイと云)、上に温泉有。」

⑥岩内領
・湯内…
「(筆者註:薬師堂が)土人の話に、此堂百年前よりこゝに有と。扨板階五六十下りてユウナイ〔湯内〕(幅三間橋有、止宿小や一軒)、傍に温泉沸々湧上り、水八分を加て浴す。此家は岩内の半兵衛と云者建しと。宿するに鍋を持たず来りし故困りしが、スイド自分アツシに米を包み、温泉壷に随時入置、上て其上に筵被置しが、程よき飯に成りたり。然し其米に土人の息〔臭カ〕気移りしには甚恐れし也。翌朝は未明より米を筵に包みて温泉に漬置しが、せ又よく出来たり。」


以上、「蝦夷日誌(下)」 松浦武四郎/吉田常吉 時事通信社 昭和37.1.15 より引用…

頭注から探したので見落としはあるかも知れぬが、ざっと抜粋してみた。
以上の様に、温泉の記述は幾つかあり、登別温泉の様に温泉場として出来上がりつつある様や「土人の湯治場」や「治療の為の霊泉利用」らは記述され、当時既に東西蝦夷地含めて温泉利用はされていたのは解る。
ここで日常はといえば、先述通り、風呂の習慣は無かったと。
https://tekkenoyaji.hatenablog.com/entry/2021/10/11/115652
何せ、旭川での「近文コタン」での「旧土人保護規定要領」の第八条には「共同浴場・共同井戸設置」が規定されるので、衛生管理の欠如はあったものと考えて良いだろう。
湯内の逸話でも、アッツゥシで包んだ米へ臭気が移る…ここからも裏付けられる。


言えば、
湯治ら温泉使用…OK
日常の風呂使用…NG
ここらがボーダーラインで、記録にある温泉紹介の場合、嘘は言ってはいないとは言えるのかも知れない。
雑談とは言え、ガチの考察をしてしまったが、こんな感じで如何であろうか?

但し…
https://tekkenoyaji.hatenablog.com/entry/2022/01/08/205904
こんな風にこの蝦夷日誌では、人々の書き分けがされている。
標記はあくまでも「土人」であり、アイノ文化を持つ人々と同一か?となると微妙ではある。
ここは押さえておく必要はあるだろう。

まぁいずれにしても「入浴剤」の利用は絶対に無いであろう事は間違いなさそうである。







参考文献:

蝦夷日誌(上)」 松浦武四郎/吉田常吉 時事通信社 昭和37.1.15

蝦夷日誌(下)」 松浦武四郎/吉田常吉 時事通信社 昭和37.1.15

旭川市史 第一巻」 旭川市編集委員会 昭和34.4.10